新時代おっさんずライフ

活動自粛!? ならば自宅で名画鑑賞だ。 映画マニア歴40年の五十郎がおすすめする傑作ムービー

  新型コロナウイルスの影響で、じわじわと活動範囲を狭められている日々である。娘が東京から帰省しているが、東京都はじめ関東圏で移動自粛、外出自粛の要請が、遂に出た。娘よ、東京に戻らない方がよさそうだぞ。

 さて、こんな時は自宅でじっくり映画鑑賞するのが良い。小学生のころから洋画も邦画も、アクション、前衛からアート系、名画などなど、約40年間鑑賞しまくってきた私である。黒澤も小津も、成瀬巳喜男、山中貞雄、溝口健二も鈴木清純も、ヒッチコックもビリー・ワイルダーもドン・シーゲルも、ペキンパー、アルドリッチ、ベルトリッチ、トリュフォー、ゴダール、ジャームッシュ、ヴェンダース、カウリスマキも、たいてい観てきた映画好きだ。いったい、これまでの鑑賞時間は何時間になるんだろう?

 そうそう、大学時代は映画研究部に所属し、自らメガホンを取ったこともあったなぁ。そんな好き者の私がおすすめする、これだけは見ておきたい傑作を厳選ピックアップ。今回は娯楽&アクションのジャンルで、王道から、ややマニアックな名作を紹介。ぜひどうぞ。

※ちなみに私の大好きな映画、つい何回も観てしまう作品はこちら。傾向の参考までに。『椿三十郎』(黒澤明)『となりのトトロ』(宮崎駿)『麦秋』『東京物語』(小津安二郎)『ポリスストーリー3』(ジャッキー・チェン)『カンフー・ハッスル』(チャウ・シンチー)

アクション映画なら、何はなくとも黒澤です。

 黒澤明監督作品は、まず外せない。中でも、黒澤&菊島隆三&橋本忍のトリオで脚本を書いた作品はどれも素晴らしい。これに主演・三船敏郎となると、もう最強だ。

●『椿三十郎』 これを超える映画、いまだなしの快作

 とにかく痛快な娯楽時代劇を目指して作ったという『用心棒』が大ヒット、その続編として作られた作品。二作目のこっちの方に、より大きな影響を受けたという同年代の仲間が、私の周りには多い。私、五十郎の名前は、本作からのインスパイアである。かれこれ20回くらいは観ていると思うが、飽きませんねぇ。

 いわゆるチャンチャンバラバラの、現代から見れば臨場感のない竹みつを振り回す斬りあいシーンが当たり前だった当時の時代劇に、刀で戦うことの壮絶さとリアリティーを持ち込んだ、【殺陣】のエポックメーキング的傑作。ジェイソン・ボーンシリーズが持つ格闘のリアリティーも、元をたどるとそのスピリッツは『椿三十郎』にたどり着くのではないか。

 斬りあいの恐ろしさ、迫力を追求しながら、映画全体にはコメディ要素や華やかさもほどよくまぶしてあるバランス感覚も見事。エンディングの人情味の匙加減も、素晴らしいというほかない。この締めくくりを超える映画体験は、いまだなし。スタッフもキャストも、特別な才能が集った奇跡のような映画だ。

 私は大学時代に本作で黒澤映画を初体験。平成の時代になりたての当時、東宝の黒澤作品はビデオ化されておらず、夜行電車で東京に行き、名画座ではしご鑑賞したものである。

●『隠し砦の三悪人』 スターウオーズの原点、ここにあり

痛快さは『椿三十郎』に引けをとらず、殺陣シーンはさらに迫力アップ。刀を構え、仁王立ちの手放し運転で馬を駆る三船敏郎の乗馬シーンは、「よく立っていられるな」と、今見てもお口アングリ。アクション映画とはこういうものだという、手本のようなシーンが全編に満ちあふれている。私はこの映画で、一気に敏郎ファンになった。※敏郎ファンになったなら、役者運命を決定づけた『酔いどれ天使』もどうぞ。

 「裏切り御免!」の名セリフを聞きたいがために、NHK-BSの放送があるたびに反射的に録画してしまう。この終盤のカタルシスを味わうためには、ここに至るプロセスを堪能しなければならないので、やっぱり何回も観てしまうのである。

 『スターウォーズ』のR2D2とC3POや姫救出の設定などは、本作にインスパイアされているというのは有名な話。

 凡百の娯楽映画に無駄な時間とお金を費やす必要はない。黒澤映画を観れば、満足度200%である。

ちょいマニアックな娯楽活劇なら?

 黒澤映画がいい例だが、その時代の才能が呼応し、集まってしまうのが映画の不思議な魅力。以下、娯楽、またはアクションのジャンルでひと癖ふた癖ある映画を思いつくままに。

●『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』 『殺しの烙印』 男なら清順&ジョーの無茶っぷりに憧れよ

監督・鈴木清順&主演・宍戸錠コンビの傑作2選。先ごろ亡くなった宍戸錠は、もっと評価されてもいい俳優だとつくづく思う、この2作。 鈴木清順 は、大衆路線や予定調和などの分かりやすい映画作りは眼中にないとばかりに、ぶっ飛びムービー『殺しの烙印』を完成させ、「わけのわからない映画を作るな」と所属会社の日活を怒らせてクビになったという。

  ケンカしようが干されようが、やりたいことやった方が楽しいだろ? って感じの、男なら憧れてしまう仕事ぶりである。

 スラリと伸びた肢体を躍動させる宍戸錠と、その肉体を存分に活かしてスクリーンに妖しいエネルギーを充満させる鈴木清純の才気。後の松田優作&村川透監督の、原点ともいうべきコンビだ。 セックスシーンもごく当たり前のように前ぶれなく始まるので、お父さんはリビングで見る際は要注意。でも作り手は、エロのつもりで作ってないので、イヤらしさはないのである。

●『殺人狂時代』 計算されたハチャメチャに、まんまとハマる気持ちよさ

チャップリンではない。監督・岡本喜八、主演・仲代達矢の娯楽サスペンス。荒唐無稽、奇妙奇天烈、コメディありお色気も少々のごちゃ混ぜムービー。重厚な演技派のイメージが強い仲代達矢だが、なかなかどうして。若いころはこんな役もこなしていた、やっぱりうまい役者だなぁという1本。おとぼけ教授と鋭利な刃物のような殺し屋という謎の二役を演じているので1本で2作分の演技を楽しめる、達也ファン必見の映画だ。

 関係者一同、映画作りの冒険を楽しんでいるムードがたまらなくいい。岡本喜八監督は後に、円熟味をまとった傑作『大誘拐』を作ったが、『殺人狂時代』は若さとキレ、才気をヒシヒシと感じられる快作。そんなアホなというようなお話に、あえてハマる快感。これぞ大人のファンタジーだ。

洋画も少々。

●『砂漠の流れ者 ケーブル・ホーグのバラード』 カッコ悪いけど愛すべき主人公、それは私でありアナタです。

『ワイルドバンチ』『ゲッタウェイ』で知られるバイオレンスの巨匠サム・ペキンパー監督が、まるで肩の力を抜ききって作ったかのような良品。西部開拓時代が終わり、馬の時代から車の時代へと変化しようとしているアメリカ。主人公はハンサムでも腕扱きでもないおよそ映画の主人公にはならなそうなオッサン、オヤジである。「自分はフツー」と気づいてしまった人々にとっての、共感ポイントだ。

 ケーブル・ホーグのジタバタしたを姿を眺めるうち、人生の楽しさ、つかの間の輝きやそれと表裏一体の寂しさなどなどが、じわりと心に迫ってくる映画。私は20代で観て感動し、その後も数回観ているが、50代の今、こう記していてまた観たくなった。そんな映画だ。

●『ウエスタン』 ※『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』

 『荒野の用心棒』(黒澤作品のリメーク)でクリント・イーストウッドとともにマカロニウエスタンの大ブームを巻き起こした巨匠セルジオ・レオーネ御大の隠れた傑作。チャールズ・ブロンソン、ヘンリー・フォンダら、名優たちが集った大作。オールスターキャストの映画は、内容が希薄になり駄作になるのが世の常だが、そんなセオリーとは無縁の傑作。各々が、この役のためにキャリアを積んできたかのようなハマり方をしており、レオーネ御大の演出も冴えわたる。ストーリーよりも、英知を結集し時間と予算をかけて作り上げる「映画作品」ならではの妙味を堪能したい、映画好きにおススメの稀有な1本だ。

 公開時の邦題は『ウエスタン』だったが、同監督の名作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』にあやかって改名し、2019年にこのタイトルでオリジナルのロングバージョンとして公開された。そちらは私は未見。DVD、まだ出てないのかな?? ちなにみクエンティン・タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、レオーネ御大の名作から頂いたタイトルである。タラちゃんの方も、やや長いけどいい映画。