今年は暖冬で、全然、雪が積もらない新潟。冬のレジャー産業は、各地で大きなダメージを受けている様子。例年であればこの時期が最も雪が降るタイミングだが、毎日、気温5度から8度くらい。異常気象だ。
この調子でいくと、桜の開花も早いのかも。かくなる上は、春の花見レジャーで観光業業界の皆さんは、冬の打撃を挽回してほしい。冬遊びができずにストレスたまり気味のアクティブ派の皆さんには、春のプランを練ってワクワクしてほしい。
ということで、地元情報を届けることおよそ30年、新潟レジャーのことならかなり詳しい私、五十郎が一足早く桜の名所・花見スポットを紹介。現地に実際に足を運んで見てきた老練ならではの話も、できるだけ盛り込むので、新潟県でのおでかけを存分にお楽しみください。
まずは定番・人気の花見イベント、高田城址公園百万人観桜会を紹介する。
集客ナンバーワン 夜桜が有名な高田城址公園
新潟県の花見スポットで圧倒的な集客数、観光客入込数ナンバーワンを誇るのが上越市の「高田城百万人観桜会」。百万人と銘打っているが、実際には来場者はもっと多いらしく、120万人超の公式発表がされている。「入込数」は概算の自己申告制なので、数字自体に正確性は期待できないが、来場者が増加傾向にある人気イベントということはここから分かる。
県内でも南に位置し、平均気温も高めようで、毎年の開花時期は新潟県の中でも早めの4月上旬。観桜会イベントの開始も早く4月のはじめだ。
新潟市よりもむしろ長野県の方が近いこともあり、お客さんたちと話してみると、長野や関東圏からきている人が多い。新潟市からは結構遠いので、市内在住者は近場で花見パターンが多いのかも。
会場の高田公園は、今年の4月から「高田城址公園」に名称を変更するとのこと。イベントの名称も「高田城址公園観桜会」にリニューアル。かつて城があった歴史を、より分かりやすくアピールするのが狙いらしい。私は今まで「城址」が付かない公園の正式名称に違和感があったので、むしろすんなり受け入れられる。上越市はそれだけ立派な歴史がある場所だ。花見に訪れた人に、ぜひ知ってほしいのでそれも下に記します。
「高田城百万人観桜会」あらため、「高田城址公園百万人観桜会」 の最大の魅力は、約4,000本ものソメイヨシノが作り出す景観の圧倒的な美しさ、迫力。 高田城は公益財団法人 日本城郭協会の「続日本100名城」の認定城。 ライトアップされた夜桜は格別で、日本三大夜桜に数えられるとか。三大って、誰が選定したのか不明なのでその評価・判断は各人にお任せするが、絶景であることにウソはない。
開花ピーク時の週末はかなりの人出になるので、混雑を避けたいなら早めの時期、早めの時間の来場がおすすめ。
でも、皆さんの笑顔で満たされるハッピーなムードは、春の花見会場ならでは。混雑もまたよしで、私はにぎわっている様子も好きです。
開花ピークを過ぎた後の楽しみも。風に吹かれて桜の花びらが舞う様子や、「花いかだ」と表現される花びらが水に浮かぶ風景も、風情があってよい。花の命は短くて、である。終わりがあるのが分かっているからこその、美しさだ。
なぜ、4千本もの桜が?
高田城は江戸時代に入った 慶長19年(1614年) 、徳川家康の六男・松平忠輝の居城として築かれた城、つまり天下普請、中央政府の直轄事業 。
忠輝は伊達政宗の長女・五郎八姫と結婚しており、築城の総監督は政宗が務め、上杉景勝・直江兼続の主従も普請に関わっている。
明治時代になるとご多分に漏れず廃城となるが、地域住民たちの運動で大日本帝国陸軍の誘致に成功、第十三師団が城跡を利用して駐屯、城下町は兵隊さんたちが行き交うことでにぎわいを取り戻す。 明治42年(1909年)に、同師団の入城を記念して約2,200本の桜を植えたのが、高田の桜の始まり。
なおこの頃、オーストリアのレルヒ少佐がやって来て健康増進のためにスキーを伝えたことから、上越市高田は日本スキー発祥の地とされている。
大正15年(1926年)、一回目の観桜会が開催された、といううのが高田観桜会の歴史。桜の木々は上越の物語のシンボル的な存在でもあるのだ。ドラマがぎっしり詰まった地なので、歴史好きならぜひ、周辺も含めて楽しんでほしい。
高田の町歩き情報を発信している、こちらのサイト「高田おもてなしの会」もあわせてどうぞ。
夜景撮影のコツ、教えます。
ここで、プロカメラマンの経験もある五十郎が、ワンポイント撮影アドバイス。夜景撮影は晴れた日の日没直後にスローシャッターで撮影すると、空の色がきれいな藍色に写る。日没から20分ほどの間、刻々と色が変化する。今のデジカメなら撮ってすぐ仕上がりを確認できるので、変化を楽しみながらの撮影も可能。便利な世の中だ。桜の場合、無風であるのがベスト。風が吹くと、スローシャッターなので桜がブレて写ってしまう。
ちなみに、日没直後の数十分間の残照時間はマジックアワーなどとも呼ばれる。太陽が沈んだ後なので、陰影のない光のまわり方をする。優しいトーンの幻想的な画像が得られるため、この時間をひたすら狙って撮影したテレンス・マリック監督作「天国の日々」という映画がある。監督最新作「名もなき生涯」は2月公開。こだわり派のアート系がお好きな方におすすめ。
マリックを真似して、マジックアワーだけ撮影する写真家とか、インスタグラマーとか、いたら面白そう。
アクセスについて 初めてのみなさんへ
車なら、臨時駐車場に止めてシャトルバスで会場へ行くのが定番。バスは頻繁に来るので待ち時間はさほど苦にならない。天気が良ければ、歩いて行けない距離ではないので徒歩で行くのもおすすめだ。春の訪れを感じながら、のんびり散歩を楽しむ心の余裕を持つのもいいだろう。
また、私は利用したことはないが、電車で行っても面白いはず。JR高田駅から高田の町なか、つまり昔の城下町を通って高田城への入城を目指すことになる。江戸時代の町人、あるいは武士の気分で町を歩くのもオツというもの。
高田の町の名物のひとつ、雁木を眺めながらブラブラ散歩。雁木とは、冬の積雪時でも通路を確保できるように、各家がひさしを延長させたもの。今で言う、アーケードのような役割。
高田はこの雁木がよく残っている、風情のある町だ。
持続可能な大人の気づかいを
近頃のキーワード「持続可能」という観点から、ここにも注目。
そんな歴史に彩られた高田の桜、よく見ると傷んだ古木がとても多いことに気づく。ソメイヨシノ誕生が江戸時代なので最高寿命は分かっていないが、なにせ百万人が訪れる高田なので、根を踏まれるなどの理由から傷みも早いと思われる。
町の貴重な資産である桜を末永く残そうと、リュウノヒゲを植えて根を守ったり、樹勢診断で木をチェックするなどの活動も、地元で行われている。(「桜プロジェクトJ」)
桜の美しさに見とれて囲いを踏み越えたり、写真撮影に熱中して根を踏み荒らしたりすることがないように、ぜひ気持ちよく花見を楽しんでほしいと願う。
おすすめグルメあれこれ
ポッポ焼き
観桜会会場の屋台なら、新潟定番のB級グルメ「ポッポ焼き」がおすすめ。黒砂糖と小麦粉で作るおやつで、祭りの屋台・露天商の人気商品。発祥の地・新発田市では「蒸気パン」と呼ばれてきた。
その調理器具、制作マシーンがあたかも機関車のように蒸気を立ち昇らせることから「ポッポ焼き」とネーミングされたとの説も。
みなとまち新潟市の市街地で生まれ育った私の父によると、「町の子たちは〝ねんぼ焼き〟って言ってたわね(新潟弁)」。ねんぼとは、ウ○チのスラングです。お下品で失礼。
ポッポ焼きは、かつてはほぼ下越エリア限定のソウルフードだったが、近年は、高田でも出店されている様子。今後、どこまで拡大してゆくか楽しみである。
「もちや菓子店」のもちやだんご
花より団子というが、高田の町なかにある「もちや菓子店」は、会期中は行列ができる人気の店。皆さんの目当ては「もちやだんご」。注文ごとに焼く、香ばしいみたらし団子。
昭和の風情が漂う店のムードも好ましい。観桜会に限らず、ちょっとした手土産にここの団子を求めて来店する、古くからの常連客が多い名店だ。
もちや菓子店/上越市本町2
「横山蒲鉾店」のすりまん
かつて高田の町に多数あったかまぼこ店。江戸時代に魚を売っていた店が、時代の変化に伴い明治時代に加工業へと業態を変えたのだ。横山蒲鉾店も、そうした老舗のひとつ。
おすすめは「すりまん」 。すり身をまんじゅうの皮で包んだ、町歩きの一服タイムにちょうどいいテイクアウトグルメだ。
横山蒲鉾店/ 新潟県上越市仲町3
横山蒲鉾店は楽天に出店している様子。足を運べなかった方、よろしかったらどうぞ。
ブラブラ、ワンダー 町あるきも、ぜひ
余談だが、この雁木は各家の家屋の延長であり、つまり、それぞれの家の所有物なのだという。それだけに、維持管理など実際はいろいろと大変だろう。全国の地方都市に共通して迫っている高齢化や空き家問題など、今後の課題は多そう。
それだけに、ぜひ多くの人に町歩きを楽しんで、高田を知ってほしいというのが、本サイト「日々是ワンダー」の願いだ。なにしろ、戦国武将の雄・上杉謙信の拠点だった上越である。天下普請で築城された高田城である。ことと次第によっちゃぁ、新潟県の県庁所在地になっていただろう場所だ。歴史好きなら発見だらけのエリアである。
さらに深堀り、周辺めぐり
戦国時代は上杉謙信が居城を築いた上越市。山城だった春日山城跡は、観桜会会場からやや距離があるが、上越の成り立ちを知る上でもぜひ足を運びたいところ。日本海と直江津港(つまり直江の津)が近く、遠く信州を見晴るかす春日山という絶好のこの山がなければ、現在の上越市はなかっただろうことが、山の頂に立つとよく分かる。ふもとには謙信ゆかりの林泉寺もあり。
余談/なぜ桜はキレイ? クローンだから、そうなった
さて桜に関する余談。花見の桜のメジャーな品種、ソメイヨシノは江戸時代(中期以降)に品種改良で誕生し、爆発的に人気を博した桜で、実は接ぎ木や挿し木で急速に広まったと考えられている、言わばクローン。同じDNAを持つ樹木だ。人気の理由は、花の付き方。葉が出る前にいきなり花が開きく、しかもその花は大きめ、風景をピンク色に染め上げるので大ウケしたのだ。
ソメイヨシノは花が葉より先に開くエドヒガンザクラと、花は葉の後に開くが花びらが大ぶりのオオシマザクラの交配で誕生したと思われる品種で、花見にはうってつけのいいとこどりの桜なのだ。