一生モノの道具たち

これは手放せない… 美しきワンダーアイテム、ライカM3

 SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)といったキーワードが、あちこちで語られるようになっている昨今。大量生産・大量消費で生活の豊かさを追求する社会はそろそろ終わりということだろう。

 と言っても、お金持ちにも小金持ちにもなった経験がないので、大量に消費した記憶は我が人生で皆無ではあるけれど。消費意欲という部分では、平成生まれの息子を見ていると「随分、違うなぁ」と感じることが多い。あれが欲しい、これが食べたいといったことをほとんど言わない。まぁ、貧しい家計に気を使っているのかも知らんけど。

 さて、地球温暖化、異常気象、自然災害といった昨今の〝きしみ〟 は、利潤をひたすら追い求めてきた現代社会への警鐘として語られることが多い。そこのところの因果関係、本当のところはよく分らんけど。いち消費者として反省がてら、自分のマインドを振り返ってみると、例えば20年前なら「安いからいいか」としたような買い方は、今、しなくなった。すぐ壊れそうなもの、使えなくなるものを増やしてもしょうがない。そんな経験を、いろいろとしてきた年の功もあるだろう。少しは子供たちの未来に貢献できてるだろうか。

〝安かろう悪かろう〟で使っては捨てる文化では、どうも地球は永く持たないようだ。「アース・オーバーシュート・デー」などといった、怖い研究データもある。 とはいえ、物欲と完全に手を切って、修行僧のように暮らすのはまだちょっと難しい。ならばまずは、できるだけ長く使える、愛着を持つことができる、モノや͡コトを『一生もの』として選んでいこうか。 まあ自分の場合、元気に動けるのは年齢的にあと20年か30年くらいだろうから、それほど大仰な話でもないんだけど 。

 そんなことを考えながら、身の回りにある『一生もの』を探した。

 ライカM3、ダブルストローク。フィルムカメラ。

デザインの美しさも、現代カメラにはなかなか見出せない魅力。

 今から19年前、2001年に買ったと記憶しているフィルムカメラ。当時はクラシックカメラ、通称クラカメがおやじたちの間で、大ブーム。40年、50年、あるいは百年も昔のカメラが好事家の間でたいへんな人気を博していた。ちょうど、デジタルカメラが普及し始めていた頃で、古いモノの良さを再発見しようという、オールドファンたちの気概も手伝ったのかもしれない。 ライカM3はそんなクラカメのキング的な存在、超定番の逸品。と、なんだか物欲の塊のようなカメラだけど、私はちゃんと活用していたぞ。

ライカM3、ダブルストローク。フィルムで撮影するカメラ。

 当時、仕事はデジタル、プライベートの家族写真はフィルムでと使い分けていた私は、このM3で休日も平日も、幼かった子どもたちの日常を追い続けた。そんな、思い出のカメラ。実はクラカメ熱に浮かされて、ほかにももっと持っていました。えへへ。あらかた手放してしまった後に残ったカメラが、これ。

 なぜ残ったのか。「思い出」はもちろんのこと、やはりモノとしての魅力があるんです。全てのパーツの工作精度、作りの良さ、デザインの美しさ、手に持った時の満足感、操作感などなど、〝愛機〟としての存在感が際立っていたんだなぁ。これは、実際に手にして使って、体感・体験しないと分かりません。

 レンズはズミクロン50mm f2とズマロン35mmf2.8。

 フィルムを装填したり巻き上げたり、手動で露出やピントを調節したりと、今のデジカメに比べると、操作がいちいち面倒くさい。でも、そんなわずらわしさも愛すべきポイント。世の中、便利すぎるとモノやコトとの〝つながり感〟が淡泊、かつ希薄になっていくからね。

ロゴなどの文字は印刷ではなく、彫り込み。
巻き上げノブのデザインがおしゃれ。梨地仕上げも美しい。

 当時、私はカラーとモノクロフィルムを併用し、モノクロは自家現像もやる熱の入れよう。あれからおよそ20年。デジタル全盛となった昨今、名機はもはや行き場を失ったかというと、そうでもない。

 ボディはさておき、レンズの方はアダプターを介して、デジタルの世界でも楽しめるようになっている。ソニーのNEXにケンコーのアダプターを介してズミクロンを装着。M3のような美しさはないのは残念。でも、撮影は可能だ。

 ズマロン35mmをつけると、こんな姿に。さすがにこれは、ちょっと使う気にならないな・・・。このズマロンは手放してもいいかも・・・

 さて、かつては無邪気な笑顔をレンズに向けてくれた我が子たちも、すっかり大きくなった。写真を撮るという家族のシーンのあり方も変わった。スマホで手軽に撮って、LINEやメールで送るのが日常となっている。

 昔の写真を改めて見返すと、その時々の思いや眼差しが甦るような、そんなものが多い気がする。もしかしたら近頃撮っている写真は、『単なる記録』に限りなく近づいているのかも…。

 とりあえず、一生ものとしてキープしているライカとレンズではあるが。これから、どんな付き合い方をしようかな。

ライカはデジカメでも健在。強気なお値段も健在、さすがの自信と誇りである。